名古屋高等裁判所 昭和26年(う)612号 判決
原審第一回公判調書を閲すると、同公判調書中に、検察官が所論摘録の(1)乃至(14)の各証拠書類に付、之が証拠調の請求を為したのに対し、被告人の原審弁護人が右書類中(13)及(14)の証拠書類以外は証拠とする事に同意し、其の取調請求に異議はないと述べた旨記載されて居るに止るので、該記載によつては、所論のように被告人の原審弁護人が検察官から右(13)に所謂被告人斉慶久男の司法警察員に対する供述調書一通及右(14)に所謂被告人齊慶久男の検察官に対する供述調書一通に付為された証拠調の請求に対し異議を述べたものであるか否か詳かでないが、仮に所論のように被告人の原審弁護人が原裁判所に於て検察官から右(13)、(14)の各供述調書に付為された証拠調の請求に対し異議を述べたものとするも、原審第一回公判調書中被告人の原審弁護人が検察官の右証拠調の請求に対し為した陳述を前掲のように記載した部分に引継き、裁判官は検察官申請の証拠書類を全部採用し取調べる旨を告げ、其の方法は訴訟関係人の意見を聞いた上、検察官申請の順序による旨を宣し、検察官に其の朗読を促した旨が記載されて居り、従て之によれば原裁判所は被告人の原審弁護人から所論異議の申立があつたに拘らず、検察官請求の右証拠書類を全部採用する旨の決定を為したことが明らかである以上、該決定は一面に於て所論異議の申立を却下する趣旨を含めて為されたものと解するを相当とするが故に、原裁判所が所論異議の申立に対し何等の決定を与えなかつたことを前提とする所論は当らない。而して被告人の司法警察員に対する所論供述調書の如きは、縦令所論のように弁護人が之を証拠とすることに同意しなかつたとしても、刑事訴訟法第三百二十二条第一項の規定により証拠とすることができるのであり、然かも原審第一回公判調書の記載に徴し原裁判所に於て所論供述調書に付証拠調手続が履践されて居ることが明らかな本件であるのに鑑みると、原裁判所は右供述調書を刑事訴訟法第三百二十二条第一項の規定により証拠とすることができるものと認め、之が証拠調手続を遂げた上、原判決に之を援用し、原判示の罪となるべき事実を認定したものであることが窺知されるので、原裁判所の該措置に関し、被告人の原審弁護人が原裁判所に於て、右供述調書を証拠とすることに同意しなかつた一事を捉え云為する所論は採用に由なく、之を要するに原判決には所論のような違法が存しないので、論旨は其の孰れの点からするも其の理由がない。
(註 本件は法令の適用の誤により破棄自判)